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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)398号 判決 1968年10月03日

控訴人 松尾昭二郎

同 大原弘

同 水谷久子

同 安田祥一

同 石寿星

右五名訴訟代理人弁護士 田中耕輔

同訴訟復代理人弁護士 山根茂

被控訴人 株式会社東海銀行

右訴訟代理人弁護士 飯塚信夫

被控訴人 株式会社平和相互銀行

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 川瀬仁司

同 菅原信夫

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、これを七分し、その三は控訴人松尾昭二郎、同大原弘および同水谷久子の平等負担とし、その四は控訴人安田祥一および同石寿星の平等負担とする。

事実

控訴人等代理人は、「原判決を取消す。被控訴人株式会社平和相互銀行は控訴人松尾昭二郎、同大原弘、同安田祥一、同石寿星に対しそれぞれ金百万円及びこれに対する昭和四〇年三月二八日以降完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。被控訴人株式会社東海銀行は控訴人水谷久子、同安田祥一、同石寿星に対しそれぞれ金百万円及びこれに対する昭和四〇年三月二八日以降完済まで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等各代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた<省略>。

(控訴人等代理人の附加した陳述)

一、手形の不渡処分を免れるために手形の支払人(約束手形のときは振出人)が支払銀行に手形の額面金額全額に相当する金員を預託するのは、当該銀行及び銀行協会からすれば、特別の事情(いわゆる事故)がなければ支払人においてその手形を満期に決済していたであろうが、事故があったため預託されたものであり、これを手形所持人からみれば、手形の決済はできたが支払人から事故の申出があるため、その決済金額が預託されたものであるという点に本質がある。そして支払人がその預託をすることができない場合は、理由の如何を問わず(たとえ偽造手形であっても)不渡処分にされている。すなわち手形の不渡免脱と預託金は不可分の関係にあるのである。

このような本質をもつ預託金について、銀行が自己の利益を確保するため、各銀行が加盟して組織する銀行協会との間に手形交換規則等を定め、預託金の取扱について当該手形と預託金との関係を切断したのは次の諸点から違法である。すなわち(イ)金銭代用証券としての性格を確保するため強行法規によって律される約束手形等は、満期に決済できない場合は理由の如何を問わず不渡として処理するのが当然であり、手形の額面金額を預託して不渡処分を免れた場合にその手形金請求権と預託金とを分離するような取扱を定めた銀行と銀行協会との間の約定等は、手形法の決済に関する規定を全く無視したもので無効といわざるを得ず、(ロ)また預託金を積んで不渡処分を免れた手形について、後日所持人の主張が通って勝訴したときは、手形法上その手形は満期に遡って不渡となるべきものであり、従って預託金は、不渡処分を猶予することに対する手形金請求権の担保としての性格を有し、その趣旨で預託し預託されるものと解するのが相当であり、もしこのような担保としての性格を有しないとするならば、不渡処分を免れしめる制度(手形交換規則等)は、一方的に手形支払人の利益を保護するもので、明らかに手形法の支払に関する規定を無視したものといわざるを得ないからである。

従って右のような預託金の取扱の定めは、当該手形金請求権の担保となっている預託金の事務処理的手続的な問題にすぎず、預託金の本質的性格には、何等触れるものではないと考えるべきである。

二、以上の点から明らかなように、受託銀行の預託金返済債務の履行期は、当該手形につき支払人から主張した事故たるべき事由が消滅したことまたはその不存在が明らかになったことを条件として、当該手形の満期日であると解するのが手形法上至当である。

(被控訴人株式会社東海銀行代理人の附加した陳述)

手形金は必ず支払わなければならないものではなく、支払を拒絶する場合もあるのであって、支払拒絶に対しては銀行取引停止処分という別途制度上の取扱があり、支払能力はあっても支払の意思がないというような信用に関しない場合に、右の銀行取引停止処分を免れる方法として考慮されているのが提供金制度である。提供金は手形交換規則に基く制度上のものであり、手形の支払を担保するためのものではない。またこの提供金にあてるため手形の支払人が支払銀行になす預託金は、右制度に基いてなされる預託者と銀行との間の契約上のものである。(同代理人提出の昭和四三年九月一二日付準備書面に「預託金」とあるのは「提供金」の、「提供金」「提供者」とあるのは「預託金」「預託者」の誤記と認められる)

理由

当裁判所も、控訴人等の本訴請求は失当であり棄却すべきものと考える。その理由は、控訴人等の当審において付加した主張につき次のように判断するほかは、原判決の説示するとおりであるから、原判決の理由の記載をここに引用する。

右に引用した原判決の理由の記載において認定したように、手形交換所において支払のなされなかった手形(いわゆる不渡手形)の支払銀行は、支払人(約束手形のときは振出人)の信用に関しないものと認めるときは、支払人の委託に基きかつ手形額面金額全額に相当する金員の預託を受け、手形交換所に右同額の異議申立提供金を提供して異議の申立をすることにより、支払人に対する取引停止処分(いわゆる不渡処分)の猶予を受けることができ、右異議申立提供金は、同一支払人が別口の不渡発生によって取引停止処分を受けたり、不渡の事由となった事故が未解消のままであるが取引停止処分を受けても止むを得ないとして返還の請求があったような場合でも、手形交換所から支払銀行(異議申立銀行)に返還され、支払人が支払銀行に預託した預託金も支払人に返還されるのであって、このような事実関係から考えると、右異議申立提供金は、支払銀行が、支払人に対する取引停止処分の猶予を得るため、支払人の信用(支払能力)に関しないことのいわば疎明の方法として提供するものと解するのが相当であり、また右預託金は、原判決の理由の記載で説示するように、支払銀行が支払人から委任された事務の処理として右異議申立提供金を出捐するにつき要した費用の支払に該当すると解されるのである。従って、右預託金は、控訴人等代理人のいうように手形金請求権のための担保としての性格を有するものとは考えられず、もともと手形金の支払とは直接の関係がない目的をもつ金員であるから、右預託金の取扱が手形法の支払に関する規定を無視して手形と預託金の関係を切断したものであるとの控訴人等代理人の主張も採用の限りではなく、さらに右預託金の返還債務の履行期に関する主張も理由がないものというべきである。

よって、本件各控訴はいずれも棄却すべきである。<以下省略>。

(裁判長判事 小川善吉 判事 松永信和 小林信次)

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